グルメンピックという2017年に開催予定であった「食フェス」イベントの運営会社:大東物産(株)が、2017年1月下旬の開催の延期および返金対応のお知らせを出したのに引き続き、2月20日付で破産開始決定を受けました。
グルメンピックの出店料を振り込んだまま返金がされないと、出店者との間でトラブルが起こっていた中で、破産と言う結果になってしまいました。
表面上は明らかな詐欺のように見えても、債務不履行や破産という形で責任逃れができる現行の法制度について調べてみました。
グルメンピック運営会社は詐欺?詐欺罪と成立要件
たぶん、ニュースを知った多くの方が、グルメンピックの運営会社の行為を詐欺と考えていると思います。
これは一般的な詐欺への認識が、「お金を払った対価としてサービス・商品提供が実施されないことにより、お金をだまし取られたと判断した・感じた行為」であるからだと思われます。
身分を偽ってお金を振り込ませる振り込め詐欺は、その状況から第三者からでも「お金をだまし取られたと判断した・感じた行為=法律上の詐欺」として認識でき、詐欺であることが容易に判断できます。
一方で、法律上の詐欺罪の成立要件は「お金をだまし取られたと判断した・感じた行為」だけではありません。
商取引で代金を先払いして商品・サービスが提供されないことや、先にサービス・商品を受けとりながら代金を支払わない行為を詐欺として認識し、警察や弁護士などへ相談に行くと、「世間一般に認識されている詐欺とは違う」と言われることがあります。
法律上の詐欺罪の条文および詐欺罪の成立要件は以下のとおりです。
<詐欺罪:刑法246条>
・人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
・前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。<詐欺罪の成立要件>
・加害者側が騙す意思をもって被害者を騙した(欺罔)
・被害者が騙された(錯誤)
・錯誤(騙されたこと)により被害者が財産を処分・交付した(処分)
・被害者が加害者または第三者へ処分した財産を渡した(財産の移転)
(欺罔⇒錯誤⇒処分⇒財産の移転の立証が必要)
詐欺の成立要件のうち下の3つは、世間一般の詐欺の認識でカバーすることができますが、刑法上の犯罪となるには加害者が騙す意思があったことを証明しなければなりません。
だまし取るつもりで財産(商品・代金)を得ていても、表面上「騙すつもりはなかった」と主張すれば成立が困難となる犯罪です。
世の中で詐欺同然の行為は多く起こっていると思われますが、こういった事情から、犯罪としての詐欺行為として立証されたケースは少ないのではないかと思います。
詐欺罪が適用可能かどうかをグルメンピックの運営会社に当てはめると、表面上でも返済の意思を示しているため、騙したという証拠が集まらない限り詐欺罪としての立件は困難ではないかと思われます。
詐欺・債務不履行は加害者側が有利?防衛策と対抗する方法
前項に記載したとおり「騙す意思の立証」が非常に困難であるため、詐欺罪に該当しないばかりか、被害届を受理してもらえない場合もあり、明らかな犯罪行為であったとしても刑法上の犯罪として認識してもらうことすら困難です。
詐欺罪に関して、被害者側からすると加害者側に有利に感じることも多いと思います。そのため、こういった詐欺行為・債務不履行行為に巻き込まれないことが最善策のように感じます。
ここではこういったトラブルに対する対応を簡単にまとめました。
事前の対策:変な信用のおけない相手と取引しない
信用の無い相手、すなはち質の悪いお客さん・取引相手に対し、不利な条件での取引を避けることで一定の効果があります。
サービスでもお金でも商品でも先に提供するほうにより大きなリスクが伴うことが多いので、信用できる相手かどうか事前に見極める必要があります。
取引内容や説明内容、HPに至るまで怪しいと感じる部分があれば、取引を避けること考えるべきでしょう。
今回問題となっているグルメンピック運営会社にも、配慮に欠ける部分が見受けられるという出店を計画していた飲食店側の意見を見かけたので、気付ける部分は多少なりともあったのかもしれません。
自身も善意で、先払いで取引に応じたものの何度か約束の対価が得られない(債務不履行)となってしまったことがありました。
割合としては少ないものの、詐欺とならない(なりにくい)ことを悪用して儲けようとしている方も一定数存在するので、相手によっては注意を怠らないことが重要になります。
事後の対策:内容証明や簡易裁判所での少額訴訟
起こってしまった後も、サービス・商品・代金支払いの履行請求や、訴訟により代金の支払いを求めることも可能です。
ただし、いろいろな面から、圧倒的に被害者のほうが不利になるのが現在の法律です。
最終的に契約を履行してもらうことが困難な理由を箇条書きにします。
・相手の住所が虚偽または夜逃げで不在となる
・回収できる代金以上のコストと手間がかかる
・電話番号の変更で連絡が取れなくなる
(交渉・話し合いによる解決は基本的に無理)
・契約を履行するための金銭・財力等がない
・失うものがないため、裁判・訴訟を恐れない
(費用倒れにより、法的な措置を起こさないことを狙っている)
・加害者の個人情報を自由に公開することができない
詐欺として立件できない場合には、原則として当事者間の問題(契約・債務不履行)として民事訴訟により争うことになります。が、多大な費用と労力をかけても得られるものは少ないのが現状です。
一般的な方法としては、内容証明による督促⇒民事裁判⇒強制執行による財産・給与等差し押さえという順番で進んでいきますが、詐欺行為や契約・債務不履行を起こす立場の方が、最終的に契約を履行する可能性は非常に低いです。
いずれの場合でも、詐欺罪でない限り、現行法では相手と取引を行ったために起こった契約不履行は自己責任となる面があるので、契約・取引には履行されなかった時のリスクヘッジが必要であることを留意しておかなければ行けません。
この部分を見ればお金を貸したり、クレジットカードの与信枠を審査する金融機関が、厳格な審査をすることもうなずけますね。(借金の場合、自己破産すれば一部の債権を除き負債が免責となります)
結局のところ契約・債務不履行は逃げ得
グルメンピックの運営会社:大東物産(株)に対し、一部では詐欺という声も上がる中、現実的な面でいえば債務不履行の形式をとりつつ、破産という道を選択したようにも思えます。
破産の場合は、債務自体が消滅し、残った財産を均等に分配するだけになってしまうので、成すすべなしといったところでしょうか。
回収の手間や、回収の見込みを考えると、詐欺のように思える債務不履行・破産は逃げ得のようにしか思えない面もあります。最終的には見込みの少ない相手に対して、費用・労力をかけ民事で争う必要もでてくるので、事前にこういった優良でない相手を避けるのが一番の防衛策になります。
こういった破産する、雲隠れする経営者が運営する会社に余計な金銭を支払わないためにも、普段から信頼できる相手を選んで取引をすることをおすすめします。