2017年3月27日、格安海外旅行会社の「てるみくらぶ」が東京地裁から破産手続き開始を受けました。
負債総額151億円、影響の出る旅行者は9万人に上り、旅行業としては戦後4番目に大きい規模の破産で、連日TVやネットニュースをはじめ話題にあがっています。
てるみくらぶ破産の本流からは少し逸れますが、今回の旅行会社が「格安」のサービスを売りにしていた部分に色々と考えるべき点があると感じたので、世の中の「格安」サービスも踏まえながら意見を紹介していきます。
てるみくらぶ破産の概要
簡単にではありますが、これまで報道された内容を元に、てるみくらぶ破産の概要を表にまとめます。
項目 | 詳細 |
---|---|
破産日 | 2017/3/27 |
負債総額 | 151億円(うち旅行代金の債務:99億円) |
債権者数 | 36266件(一般旅行者36046件、約9万人) |
売上高 | 196億円(H28)、130億円(H27)、86億円(H26) |
業務停止原因 | BSP清算(利用料金支払い)の遅延 |
破産の要因 | 格安販売、広告費・仕入れ価格増大等による利益率の悪化が原因になっていると思われます。 |
3/24時点で、旅行会社が発行する航空券に対する支払い(BSP清算)が遅れたことにより、旅券が発行できないトラブルが発生していたので、資金繰りが悪化していることは想定されていましたが、週明け早々に破産手続き開始に至りました。
※その後、てるみくらぶホールディングス、自由自在も破産に至っています。
直前までパッケージプランの申し込みを行っていたり、破産の3年前から粉飾決算を繰り返していた事実が報道されていたりと、詐欺とも考えられる状況になっています。
破産の際の記者会見では、「詐欺ではありません」という発言もあったことから、計画倒産ではという声も上がっていますが、現時点では黒字化・資金繰りのために必死に運営していたのか、意図的なものであるかは明白ではありません。
適切な代金が払われなかったことが原因?
何をもって適切な代金か判断することは難しいですが、売り上げが伸びている中で利益を出せていない背景には、経営における浪費などの重大な問題がない限り、旅行サービスに対して見合った額の代金が支払われていないことが容易に想定できます。
この適切な代金が支払われていないのには、サービスを販売する「てるみくらぶ」側および実際に旅行を申し込む消費者側の両方に原因が考えられます。
前者は主に経営努力や企画・販売力(単価・利益率を高くすること)であり、後者は消費者の観点では実感しにくいかもしれませんが、販売する旅行会社の意図する価格ではなく、最安値など格安と思える価格でないと旅行しない・契約を見送る消費者がこのような状況を生み出していると考えることも可能です。
後者のケースにおいて、例えば旅行のプランで相場より安めの1人10万円のプランで申し込みを見送ったとして、後日セールか何かで2、3万円安くなれば申し込みをする場合は多いのではないでしょうか。
旅行会社にとっては一時的と考えていた薄利多売戦略が、そのうち薄利の格安プランでないと十分な申し込み数が得られないようになり、競合の旅行会社の影響もあって薄利もしくは赤字での営業が加速していったものと思われます。
元々は余った航空座席を安く仕入れることで、安価なプランを提供していたようですが、原価が上昇した分を価格に転嫁できずに負債が増加していったのが破産に至った主な原因だと思われます。
何でも格安であれば良いという風潮も問題
今回のてるみくらぶは旅行サービスですが、ほかにも格安であれば良いという風潮があるように感じるサービスについて実例や過去の記事とともに紹介します。
格安SIMは安ければ良いと紹介される代表例
安さを武器に消費者に契約してもらう・紹介報酬をもらうこと狙ったサービスの代表例がここ最近の格安SIMではないかと思っています。
単純にプラン切り替えた際の支払額を考えると、月々の支払額こそ減るため大きな節約につながる場合もありますが、その価格差について紹介されていることは少ないように感じます。
また単純に月々の料金のみが比較されていますが、端末代金が入っていなかったりと「比較」として成り立たない状態で、価格差、節約額(年間5万円等)が強調されているケースが多い。
スマートフォンでの電話やデータ通信をあまり使わない場合にはお得で魅力的なプランですが、その反対に回線速度をはじめとしたサービスの品質が相対的に低くなることが料金の差につながっています。
特にネット上では紹介報酬を得ることが優先する目的になり、クローズアップしていない記事・紹介者が多いように感じます。
自身は格安SIMは利用者の使用状況に応じて選べるサービスで、決して格安ではないサービスと考えています。
引っ越し代は安ければ良く、高いとぼったくり…
もう一つネット上で多く見かける意見が、引っ越しは安ければ安いほど良い、高いとぼったくりという一方的なものです。
中には、確定していない見積もりの数字だけで意見を述べているものもあり、検索でのヒットや紹介報酬を優先したものも良く見かけます。
引っ越しの場合は人件費や移動距離といった様々な要素が価格に反映されるので、一概に高い安いを述べることは難しいですし、最安値となる条件が必ずしも利用者の要望を満たすとは限りません。
同じ10万円の引っ越しが方や10万円、もう一方が5万円でということであれば色々と問題なのかもしれませんが、他社と比較した際に料金が異なる場合には安さの理由を考慮する必要があります。
安く引っ越すための条件などは以下の記事で紹介しています。
単純に引っ越し会社に都合がよいために割引を受けて格安で引っ越しができるのであればよいですが、正当な報酬を支払わなかったために引っ越しサービスの質が極端に低下してしまうのであれば、安ければ良いということは無いはずです。
これらのように、現在の消費低迷も相まって格安であれば良いという風潮が一部であるように思いますが、必ずしも質を伴ったものではないことには注意が必要です。
弁済率は支払旅行代金の1%?あまり期待できない
今回の場合、負債総額が大きく、債権者も多数いるものの、資産が十分にないために債務不履行となっている支払代金の返金はあまり期待できません。
残っている資産は換金した後に債権者へ配当されますが、税金や従業員の給料、破産管財人の報酬が優先され、残るお金があればその他大勢となる一般債権者(旅行申し込み客や取引相手など)で債権の額に応じて配分されます。
旅行者の場合は、てるみくらぶに関する弁済業務保証金制度により別途1億2千万円が弁済されますが、この段階で旅行代金の約1%、債務超過が現段階で126億円程度となっていますが、これを含めても2割を切ることになります。
(実際はすべての清算が完了して確定しますが、ほとんど返金されないという見方で間違いないものと思われます)
自転車操業状態となっていた負債のツケは、結局のところ現在の債権者(旅行代金を払ったまま旅行に行けなくなってしまった方)が背負うことになりました。
現代の法律に従うのであれば、倒産(および責任者が自己破産)してしまえばそれきりお金は返ってこない(債務消滅となる)ので、支払った側がその負担を負うことになります。刑事罰を問うことができたとしても、民事訴訟となる返金を求められるかは別の問題です。
銀行でお金を借りたり、クレジットカード会社が申し込み時に厳しく審査する場合があるのと同じように、申し込む側にもサービスに対する正当な対価を支払っているかは絶えず確認する必要があるように思います。
他にも格安で提供されているサービス・商品はたくさんありますが、格安にこだわるあまり本来のサービス・商品に影響が出るようなものを選んでは本末転倒です。ババを引かないように、格安に固執するのではなく、サービスに対する正当な対価を支払う心がけが必要ではないでしょうか。
事前の新聞広告が詐欺ではないかと話題になっていましたが、極端に安い場合、支払期限が早い、現金一括払い(銀行振込)を求められる・・・など不審な点があれば疑ってかかった方が良いということです。今回の場合、詐欺ではないとあるように、会社の存続のため必死に売り上げを確保しようとしていたようにも思えます。
自身は商品取引上の失敗ではありますが、上記の3つが揃っていたケースで同じように責任逃れを経験をしたことがあります。こういった場合、トンズラの可能性が高まるので、お金に困っている立場の人の行動のうち共通するパターンの1つだと思っています。
入社予定の新社会人が一番の被害者か
もちろん、取引の際の代金や貸付金が返ってこなくなった立場の事業者や、旅行代金が返ってこない旅行客も被害者ではありますが、一番の被害者はてるみくらぶに入社予定だった負債に全く関係の無い新社会人の方々ではないでしょうか。
破産の影響を、債権者とともに受けることになってしまったことは、債務不履行となってしまった被害者以上に気の毒に思います。
約50名ほどが内定取り消しを受ける事態となり、緊急で一部のハローワークに相談窓口が設けられることになりました。
また、てるみくらぶ内定者に対して無条件に採用を表明する企業もあるなど、人生を振り回された間のある新社会人に対して支援する動きがみられています。
レジャー・娯楽といった要素が強くなる旅行に対して、各自で被害額を負担する結果となるのはある意味仕方のないことかもしれないですが、生活に直接影響の出る職を失う行為に対して救済措置で採用を申し出る企業の存在は非常にありがたく思います。
入社直後に自分の意志で会社を退職するのは新入社員自身の責任ですが、選ぶ機会もなく不当解雇されてしまったような状態であれば、一番の被害者となっていた可能性があったので、新卒で入社できないという最悪の事態を避けることができるだけマシなように思います。
まとめ
てるみくらぶの破産に関連して気になった「格安」の部分に焦点をあてながら、考えていることを紹介してきました。
少し話題は逸れるかもしれませんが、昨今のクロネコヤマト問題にせよサービスの内容と対価が釣り合わずひずみが生じているケースは多くあるように思います。
今後同じような状況に遭遇しないために、自衛手段や、判断能力が求められると考えておいて間違いないでしょう。また「格安」のツケが自分自身に回ってくることがあるのも1つの教訓ではないでしょうか。